2012年7月21日土曜日

アメリカの犬

 遠い昔、中学で初めて英語を習ったとき、先生がこう言った。「いいか君たち、アメリカの文化は日本よりはるかに進んでるんだ。たとえば・・・」とチョークを取って、アメリカの犬はバウワウと鳴く、猫はミューミューと鳴く、ニワトリはちょっと言えないほどケッタイな声で鳴く、と鳴き声のスペルを黒板に書いた。
 わたしはポカーンと聞いていた。「アメリカの犬はバウワウと鳴く」という知識は、世界を知らない少年には衝撃的だった。
 学校から帰って、我が家の駄犬イノキチの頭をたたいたら「ワン」とないた。文化が低いぞとしげしげ顔を眺めたら、恥ずかしいのかまた「ワン」と鳴いた。
                 
 長じてアメリカに住み、お隣の犬の声を聞いたらワンワンと鳴いている。
 ありぃー、イノキチと同じではないか。近所のペルシャ猫はニャーニャーと鳴いている。我が家の三毛猫マルコと同じやん。アメリカの動物園でニワトリの声も確かめたが、しっかりコケコッコーと叫んでいた。
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 こんな話を思い出したのは、iPS細胞をつくった京大の山中伸弥さんの講演を聴いたからだ。山中さんは「アメリカの研究者が、アメリカの犬はワンと鳴くという論文を発表すると、日本の研究者も実験して、日本の犬もやはりワンと鳴いたという論文を書き、同じ結果に安心する」というたとえ話をした。講演の趣旨は、パイオニア研究者たるもの同じ結果に満足してはいけないよ、という警句の方にあるのだが、わたしは趣旨とまったく関係のない「アメリカの犬はワンと鳴く」という山中さんの話の振りに、時の流れを感じた。
 いまどきの学生さんに「アメリカの犬はバウワウと・・・」なんて言うと、笑われるだろうか。(の)