2013年3月12日火曜日

私と20世紀・21世紀のクロニクル

 「この人のことを知ることがなければ、違う人生を送っていただろう」と思う程、影響を受けた人物が私には3人いるのですが、その中の一人が日本文学者のドナルド・キーンさんです。
 
 中学生のころ、学校の図書館でドナルド・キーンさんの『音盤風姿花伝』(現在は『私の好きなレコード』と改題されています)という本と出会いました。この本はキーンさんのご専門の日本文学に関する本ではなく、キーンさんが音楽の友社の雑誌「レコード芸術」に寄稿していたエッセイをまとめて本にしたものです。
 音楽評論といえば今の時代は特に、業界への配慮であるとか、さまざまな事情で個人的にはあまり面白いとは言えない文章が多い気がするのですが、このエッセイでは「ただの」クラシック音楽ファンのキーンさんが、「ただのファンっぷり」を気持ちいいまでに発揮されていたこともあってか(例えば、「どんなに素晴らしい歌手が舞台に立っていても『魔笛』だけは二度と舞台で見たくない。リブレット(台本)のばからしさからいえば『魔笛』の右に出るオペラはない。レコードで聴くほうがいい。」など・・・)、中学生の頃の私でも、とても面白いと感じたのです。

 それからキーンさんという人物に興味を持ち、キーンさんのその他の著作を調べ、学校の図書館や自宅近所の図書館からかりてきて、まさに「読みあさり」ました。キーンさんから日本文学の魅力を教えられ、三島由紀夫や谷崎潤一郎、安部公房、川端康成などの本を背伸びして読みました。源氏物語の現代語訳も読みました。10代の自分にとっても、今の自分にとっても、それはそれは大事な時間でした。私は今も本を読むことが大好きなのですが、そのきっかけとなったのは間違いなくドナルド・キーンさんです。

 先般、ドナルド・キーンさんのご講演を初めて聴かせていただく機会があり、お元気そうなご様子と興味深い内容のお話に感銘を受けました。感銘を受けた、というよりも心の底から感動しました。10代の頃の自分を思い出しもし、様々な思いがめぐり、胸がいっぱいになったのです。
 東日本大震災後に日本に永住され、昨年の春には帰化申請も認められ、日本人となられたキーンさん。そして「日本人になるまではお客さんだったが、今後は他の日本人と同じように、日本に対して文句などを言うことがあるかもしれない」とおっしゃられ、実際に苦言を呈されたこともあります。これからも私はずっとキーンさんの言葉に注目し、間違いなく影響を受け続けるなあと、講演後にお帰りになられるキーンさんの背中を見ながら確信したのでした。(むら)