2013年4月5日金曜日

1枚の名刺

  4月。自分の名前が書かれた名刺を初めて手にしたフレッシュマンも多かろう。
ちょっぴり誇らしげで、ちょっと照れくさくて、名刺を渡すときに心臓がどきんどきんと高鳴っている。
そんな社会人初日の経験も、いつか人生の星霜を振り返って、うふふと思い出すときがきっと来るよ。

1枚目の名刺をだれに渡しましたか? ご両親? 彼氏か彼女?
あなたのことを一番心に思っている人に、あなたの成長のあかしとして手渡してあげるのを忘れないで。もらった人はきっと、生涯あなたの名刺を持ち続けるはずだから。

わたしがもらった名刺はどれぐらいあっただろうか。手元に残しているものだけでも数千枚はある。その中で忘れられない「めいし」が1枚ある。遠い昔に会った25歳の青年にもらった。そのときわたしと同じ歳だった。

彼は重度の進行性筋ジストロフィー患者で、両手の指先以外はほとんど体が動かない。生きることの苦しさと、若者らしい愛や感動を詩に書いていた。
わたしが名刺を渡すと、彼はノートの隅っこに鉛筆で字を書き始めた。

30分ほどかけて自分の名前と、入所している国立療養所の住所を書き、末尾に「めいし」と書いた。それを定規で切り取って、わたしにくれた。
不正形の紙の切れ端と、たどたどしく揺れる文字。
その揺れる文字が、わたしの目の中でもっと揺れた。

 人生にはかけがえのない出会いがきっとある。1枚の名刺が生涯の友をつなぐこともある。新社会人、がんばってください。 (の)